ラグビー

楕円球コラム 「スタンドから」

Vol.105「新橋の居酒屋で」投稿日時:2012/01/23(月) 14:46rss.gif

 ある仕事の付き合いで、新橋のとある居酒屋へ行った。ラグビーとはまったく関係ないメンバーでの飲み会だ。たまたま、会の主催者(兼料金支払者)は高校時代にラグビーをやっていて詳しかったが、それもまったくの偶然だ。
 もちろん、店もラグビーとは(どうみても)何の関わりもない。当然、飲みながらの話もラグビーとは関係のない話題に終始していた。

 ところが、ふと筆者のもたれかかっていた壁の上側に目を向けると、一枚の色紙が掲げられている。そこには「荒ぶる」の文字が書かれていた。「荒ぶる」。一瞬、目を疑ったが、間違いなく「荒ぶる」だった。年月を経たらしく、失礼ながら、やや色褪せた色紙だった。

 その「荒ぶる」の文字の周りに、サインが書かれている。くずし字で読み取れないものもあったが、いくつか読み取れたものもあった。
「清宮克幸」「堀越正巳」「清田真央」「永田隆憲」「今駒憲二」「藤掛三男」「桑島靖明」……ん! これはもしかして、伝説の「第25回日本選手権優勝」の年のフィフティーンではないのか!
「木本健治」の文字も読み取れる。故・木本監督だ。間違いない。1987年度の、あの日本一のときのメンバーがこの店にいたのだ。
「荒ぶる」と書かれているので、正確にはおそらく日本一になる前、大学選手権直後なのだろうが、とにかくこの色紙は24年ものあいだ、ここにこうしてずっと飾られていたのだ。

 妙な興奮を抱えて家に帰り、パソコンの前に座る。自分の記憶が正しいかどうかを確認するため、「1987 早稲田 ラグビー」などとキーワードを入れ、検索してみる。
 すると、世の中いろいろな人がいるもので、当時の映像を「YouTube」にアップしている人がいる。大学選手権決勝で同志社に勝ち、大学日本一になったときの映像もあった。

 筆者が見たのは最後の数分間だけのものだったが、そのプレーもさることながら、試合後の木本監督のインタビューも非常に印象に残った。
 アナウンサーが「勝因としては何を挙げましょうか」と尋ねる。すると、木本監督は「やはり早稲田のディフェンスだと思います。タックルですね」と答えている。

 そう、やはりディフェンスのしっかりしているチームは強い。
 この後、学生は社会人にまったく勝てなくなり、日本選手権のシステムそのものが変わるわけだが、次に学生が社会人の上位チームを破ることになるのはご存じのとおり、2005年度、佐々木隆道キャプテン率いるチームが日本選手権でベスト4に進んだ第43回大会だ。
 このチームはFWもBKも強く、その攻撃力もすさまじかった。どの試合でも安心して見ていられた。ただ、「安心」して見ていられた最大の理由は「ディフェンス力の高さ」だった。「点を取られても取り返すだろう」という安心感もあったが、何より攻撃されるシーンでも「大丈夫。必ず止めてくれるだろう」という気持ちが強かった。

 組織的に敵を外へ外へと追い込むディフェンス。何かのテレビ番組で大畑大介氏が言っていたが、外へと追い込むディフェンスで最も大事なことは仲間どうしの信頼感なのだそうだ。内の選手は「内側に来たら俺に任せろ。でも、外は任せたぞ」という気持ち、外側の選手は「俺はおまえを信頼しているから、外へのディフェンスに集中するぞ」という気持ち。
「こっちに集中したいけど、もしかしたらこっちも危ないのではないか」という気持ちがあると、相手に抜かれる可能性が非常に高くなるわけだ。

 さて、今シーズンの大学選手権は帝京大学が優勝し、大学選手権3連覇を果たした。これに対して、筆者の知る限りだが、「帝京のラグビーはおもしろくない」という論調も少なくないようだ。
 おもしろいか、おもしろくないかは個人的な感想なので何とも言いようがないが、対戦する当事者として「おもしろい」か「おもしろくないか」といった論調に惑わされると大事なことを見落とす恐れが出てくるような気がする。
 少なくとも帝京が3連覇したのは「“おもしろくない”ラグビーをしたから」ではあるまい。

 帝京の強さは、準決勝まで失トライゼロに象徴されるディフェンス力だ。そのディフェンスを打ち破らない限り、ワセダに限らず、ライバル校のリベンジはない。同時にディフェンスの強いチームこそが本当に強いチームだということを、もう一度、思い出し、組織的なディフェンスに磨きをかけてほしい。
 こんな話は釈迦に説法かもしれないが、優れた個人能力をいい形で組織化してもらいたいと思う。

 あの佐々木組の感動からもうすでに6年が経った。光陰、矢のごとし。2019年もあっという間にやってくるに違いない。大学間の健全な切磋琢磨が、2019年の日本代表に必ずいい影響を与えるものと信じている。
 新橋の居酒屋で出合った1枚の色紙が、こんなことまで考えさせてくれるとは思わなかった。あの店にはまた足を運ぶことになるような気がしてならない。

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